山野博大氏からのお言葉
宮下恵美子の仮想ダンスカンパニーが<アトリエム6月公演>で「フソウホタルトナル」を上演した。立花あさみ、長沼陽子の二人が踊った。このカンパニーは、昨年7月にウエストエンドスタジオで「421」を、8月と12月にシアター・バビロンの川のほとりにてで「めかりどき」を上演している。
「フソウホタルトナル」はテナーサックス奏者のフリージャズ風で始まった。透ける布地を使ったゆるやかな衣装の立花と長沼がいつの間にか動き始める。右に回り、左に回る。動きはごく単純なものだが、すっかりと肉体を仕上げている二人のダンスは少しも見飽きることがない。暗い舞台が少しづつ暖まると、ようやく二人のダンサーの違いが明らかになった。さらに、空間が活性化したところで、突然の闇が訪れる。闇に目を凝らすと、蛍の光がふわふわと漂うようにゆっくりと動いているのが見える。闇を明るく照らすことはないけれども、そこにおだやかな空気が流れていることが光の動きによってなんとなくわかる。
踊る側がどこからどこまで全部作ってしまって、観客はそれをただ見るだけという舞踊がある。クラッシック・バレエの定番作品の世界的なバレエ団による上演、豪華なミュージカルの華やかなダンスシーンなど、お金をかけてていねいに仕上げられた舞台からは画一的だが、間違いなく一定の感動が与えられる。しかし、その一方に、この「フソウホタルトナル」のように、観客の想像力を当てにして成り立つ舞踊がある。その舞台となったシアター・バビロンの川のほとりにてという小さな劇場は、地下鉄南武線の王子神谷駅から商店街が途切れた先に、ひっそりと建っている。観客がどこからともなく集まり、いつの間にかわずかな観客席が埋まっていた。
作品が進み、蛍の光が消えて劇場が明るくなったところで、大きな拍手が起こり、しばらく鳴り止まなかった。観客のひとりひとりがそれぞれの感動を持ち寄って最後に「フソウホタルトナル」を完成させたのだ。けっして多くはない観客の大きな拍手は共感の証しだった。
この作品は宮下恵美子が、今後自らの進むべき道をはっきり示したのもとして意味のあるものだったと思う。
さらに、
「ほたる舞ふ 重なる闇の ゆらぎかな」
博大